よくクラスのみんなと自転車で海まで行って、はしゃいでたっけ。

あの頃が一番素直で、一番無邪気で。

あの頃に戻れたら、きっと今みたいな複雑な思いなんてしなくて済んでたかもしれない。


小さい頃のことを思い浮かべながら、目を閉じた。


「おい」

揺れ動くカーテンの奥から通る声に、あたしは閉じたはずの目を開ける。


「…へ?」

一瞬、誰に声をかけているのだろうか?と、戸惑った後、間抜けな声が漏れた。


「言っておきたいんだけど…」

淡々と静かに、海斗らしく言葉にしていく。その台詞に驚いてあたしはもう一度体を起こす。


「な、何を?」

海斗があたしに言っておきたいこと?短い間で考えたところで、チビとかバカとか、そんな言葉しか見つからない。


「毎日、デートじゃなくて。塾に通ってんの。お前、いちいちうるさそうだし、変な誤解だけは解いとかないとな」

「…は?じゅ、…塾!?」

あたしの甲高い声に反応しない海斗、あたしはすぐに大きな口を開けた。


「海斗が…、塾!?勉強嫌いの海斗が?何、なんのじょーだん!?だって、あの子は…?」

そもそも、海斗が塾に通っていることにも驚きだった。けれど、なんで急に教えてくれる気になったのかもそうだけど、一番気になるのは、一緒にいたあの子だ。