両手でも足りない

海斗ママが以前話していた言葉が頭の中を何度も駆け巡る。

『駅前で見かけたんだけど、細身で髪もサラっとしてるキレイな子と歩いてたのよ。こーんな小さな町じゃデートする場所なんてないからねぇ』


ああ…、だから隣町まで来てんだ。

わざわざ毎日通うほど彼女に会いたいんだ。


確かめるために後をつけてまで知りたかった事実に、ようやくあたしの意識が戻されていく。


「青海?大丈夫か?」

視界の片隅にぼんやりと浮かぶトモくんは、いつになく優しく心配そうに問い掛けた。


「うん」

そう頷いた時、ポタリと雫が落ちてきて頬に伝う。


「雨?」

と、見上げると、トモくんの顔が目の前にあって、悲しげに眉が垂れ下がっている。


あたしはきょとんと、首を傾げ口を開いた。

「どしたの?」

「そりゃこっちのセリフだ」

トモくんの小さい声はやけに重たく感じた。