両手でも足りない

あたしたちより先に改札を抜けた海斗の、その隣には小柄な女の子がひとり。

海斗の陰になっていて、遠目では確認できないけれど、髪はストレートに真っすぐ伸びているのが目についた。


時折、照れ臭そうに頭を弄る海斗の姿。

陰から見え隠れする彼女は、口元に手を当てて微笑んでいるらしい。


“初々しいカップル”

そんな言葉がお似合いの二人は駅からどんどん遠ざかって行った。


本当に、“デート”だったんだ。


当てつけかのように去って行く二人を、あたしは黙って囲まれた金網から、ただただ視線を奪われるだけ。


一瞬にして空気が凍りついたみたいに、時が止まる。

息をするのも忘れるくらいの衝動に、あたしの足はピタリとコンクリートに張り付いていた。


その子、誰?

とか。

どこ行くの?

だとか。

そんなのは後についてきて。


なんでそんなに嬉しそうな顔してるの?


チクチクと心臓に針が突き刺さる。