両手でも足りない

隣に目を移せば、トモくんは素知らぬ顔で。

助け船を出しているにも気づいていないのか、それとも気づかないフリなのか。とぼけちゃってる。


あたしひとりアタフタ戸惑うばかり。


「…で、デートだよ!そう、トモくんとデート!!これから映画見に行って、…ね?」

あたしの口から咄嗟に出た言葉だった。


こんなこと、自分から誤解を招くようなこと。もちろん言うつもりなんかなかった。

ついそんな台詞が出ていて、はっと息を飲み込んだ時にはもう遅い。

平静に澄ましていたトモくんが驚く番だった。こちらをものすごい勢いで振り向いて。でも。

「そうだよ、な?」

「そう、そうだよ。ね?」


話を合わせてくれたトモ兄の顔は、バカか!ってそんな呆れ具合が滲み出ている。


あたしだって心の中で、バカ!って叫んだのは事実。


何を口走ってしまったのだろう…。

ほんとにバカだ。


後悔しても遅く、声に出した言葉を取り消すのは不可能だった。