両手でも足りない

「やればできるじゃない。普段も真面目にやりなさい」

跳び終えたあたしに近づいてきたスパルタ先生は、褒めているのか叱っているのか微妙な言葉を残し、引き続きホイッスルを吹く。


…え?


助走をつけ跳んだのまでは覚えている。

ふあっと身体が宙に浮いて…。

そのあとのことは覚えていなかった。


気づいたらマットの上にいて、着地した時の衝撃が全身に伝わったのは理解できる。


ちゃんと跳べたのかは定かではないけれど。恐らく跳べたんだろう。

じゃなきゃ、あの先生が褒めるわけないし。


ぽわーんとしていると。


「失敗するって思うから変に力が入る。失敗すんのが恥ずかしいんじゃなく、できないのが恥ずかしいんだろ。できるための努力しろ」

10段に挑もうとする海斗と擦れ違ったとき、変わらず冷めた口調で言い放った。