両手でも足りない

海斗が視界から消えたあと、両手で頬を押さえる。緊張で顔が強張っていたらしい。


顔が怖いって、どっちが!と、文句は後からやってきた。


淡々とした口調には温かさなんてものは備わっていない。なのに、“チビ”と言う以外に話しかけてきたことが、あたしをひどく驚かせた。


「…何、あれ?」

そう呟いた時。


体育の先生が吹くホイッスルが高鳴り、「岩佐さん!やる気あるの!?」と、雷が落とされ。

あたしは慌てて「はい!ありますっ」と威勢よく返事をし、利き腕を上げた。


…力みすぎ、ねぇ。

んなこと言われても、できないんだから。

つい無理に力が入る。


軽く、軽く…。


だけど、なんで…。


あたしが落下するのを恐がってるって、なんで海斗にはわかったんだろう。


落ちたら痛いし、恥ずかしいし…。


チビには一生無理?


…無理じゃなーいっ!バカにしてくれちゃって。