「へ?」

返した言葉がこんな素っ頓狂では、またバカと罵られても言い返せない。


緊張のあまり手の平は汗が滲んでいて、力強く握った拳は強張っていた。


「力みすぎ。そもそも運動できないんだから、そんなに緊張したところで、どうせできないもんはできないだろ」

あたしは運動が苦手。それは海斗は当然知っていることだ。

そりゃもっともだ。

なんて感心して、無愛想な海斗の話しに聞き入っている場合じゃない。


「踏み込む足の力も、押しのける腕の力も中途半端。落ちたこともないくせに落ちること恐がってんじゃ、チビには一生無理だな」

これはアドバイスなのだろうか?それとも…、毒を吐きたいだけ?


いつもの澄まし顔がやけに優しく見える。

いつの間にか極度の緊張で強張っていた身体も、なんだか軽くなった気がする。


「あと、顔が怖い」

と、自分の頬を指差し、ほうけるあたしの横をスタスタと去っていく。