「なんなのこれー?」

袋の中を覗けば少年マンガの単行本がギッシリ。

「この前トモくんに借りたマンガよー。お礼言っといてねー」

リビングに顔を出すと、お母さんの声はキッチンからふりかかる。


それは見ればわかるけど…。


「お礼のパウンドケーキも忘れないで渡してよー」

本の脇にはキレイにラッピングされたパウンドケーキ。微かにバナナの匂いがする。


「…はいはい」

お母さんもいい加減諦めればいいのに…。


紙袋を抱えてあたしは玄関を飛び出し、数メートル先のお隣りさんの門をくぐる。


ピンポーン…。ピンポーン…。

インターホンを2回押すと、呼び出しチャイムが鳴って、すぐにマイクから応答があった。


「はい?」

「すみませーん」

少し低めのトモくん本人のよそよそしい声が聞こえ、カメラに顔を近づけると、同じようにあたしもよそよそしく装った。


「今開けるー」

トモくんは笑い声でそう応えると、受話器を置いたようで、マイクからガチャリと音が届いた。