MATO


【佐藤の射を見てるうちに、だんだん惹かれていった】



「…………あたしの、射」



零れそうになる涙を堪える。

ただの憶測に乱されてはいけない。
心の乱れは射の乱れ。



「弓矢を持るけと審固にして、然る後に以て中ると言うべし」


心も体もしっかりしたきちんとした状態で弓矢を取り扱うことによって、矢は的にあたると考えるべきだという「礼記」の教え。


一つ深呼吸をする。

そして無心に弓を引いた。


鏡を見て、弓を引く。

何度も、何度も

明日のために。

黒い気持ちを抑えきれない、自分のために。






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[参考]
>全日本弓道連盟「弓道教本」第一巻
>全日本弓道連盟「弓道」1995年9月号「礼記射義について」
>岐阜県弓道連盟・岐阜県高等学校体育連盟弓道専門部 平成21年度「弓道部活動
のしおり No.28」