とりあえず立てるなら大丈夫か…。

よかったー…とホッと胸を撫で下ろす。

脳震盪とか起こして倒れられてたら、加害者になっちゃうところだった。

いや、すでに加害者なのか?


悶々と考えながら、あたしは立ち上がった彼を見上げた。


わ…!

背高いー!!

あたしも立ち上がって並んでみると、170㎝弱はあるあたしと頭ひとつ分くらい違う。


中学の時周りの男子はチビばっかりだったもんなー。

物珍しさにあたしはしげしげと彼を眺める。

彼は無造作にブラウンの髪を整えていて、女子が騒ぎそうな顔立ちだった。


あれだね、えっと、イケメン?

芸能人とかによくいそうな感じ??


「あの~、ここに何の用で?」


頭をおさえる姿に申し訳ないなぁと思いながら、あたしは尋ねた。


ていうか、お父さんの相談者って女の子ばっかりじゃなかったんだ…?

ちょっとホッ…

ろくに仕事もせずに女の子たぶらかして給料もらってるのかと思った…。

別にお父さんにそういう前科があるわけじゃないけど。


「高藤先生に呼ばれて来たら、あなたが寝ていて…」


「お父さんに?呼ばれた?」


どういうこと??


「“お父さん”? ―――あぁ、もしかして…」



ブー、ブー、...


彼が何か言いかけたところで、あたしの携帯が震えた。

ディスプレイには、“高藤葉介”の文字。


「ちょっと失礼………もしもし?お父さん??」


『お~葉月、パパだぞ♪どうだ?彼には会えたか??』

携帯を耳に当てるなり、呑気な明るい声が入ってきた。

病人とは思えない声に、思わず苛立ちを覚える。


「『パパだぞ』じゃないわよ!!それより、『彼に会えた』って……」


『ん?まだなのか?相談室に行っただろ? 1年6組、東雲翔くん』


くるりとあたしは振り返る。


「あんた、東雲翔…?」


「うん」


先ほどの彼は壁にもたれかかったまま、キョトンとした顔でこちらを向いてうなずいた。