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ドンッ


「もう信っっっじらんないッ!!」


すっきりとした天気の良い昼下がり。

机を拳で叩く音と罵声が、病院内の静けさを突き破った。



「お、お嬢さん…落ち着いて…」



看護婦さんがオロオロしてあたしをなだめようとする。

それでもあたしの怒りは収まらない。



「たかが盲腸じゃない!!なにが『後を頼む』だよ!!」


「まぁまぁ、そんな怒るなよ~

パパだって痛くて死ぬかと思ったんだぞ~?」


「黙れクソ親父!!」



「び、病院ではお静かに…」


病室の隅で、看護婦さんが小さくなっている。


昨日の晩、急に身体の異変を訴えて救急車で運ばれたお父さん。

診察を受けてみれば、実はがんでも心臓病でもなんでもない、ただの盲腸だったのだ。

手術を受けて取り除いたおかげで、まるでそんなことなかったかのように今あたしの目の前でケロッとしている。

まったく、急に倒れて苦しみだして、大げさにもほどがあるわ!!

本当に意識失っちゃうし、どうなることかと思ったのに!!

嘘みたいにピンピンしてるし!!

あたしの涙を返せ!!


フンッと思いっきりお父さんから顔を背け、ブツブツ文句を並べながらドアへと向かう。

ところが、あたしが病室を出ようとした時。


「あ。そうだ、葉月。」


あたしの意思とは裏腹な呑気な声で呼びとめられた。


なんか用かこの厄介親父。


あたしは振り返って物凄い剣幕で睨み付けてやる。

なのにそんなあたしを無視して、このクソ親父はとんでもないことを口走った。


「パパの入院中、迷える仔羊ちゃんたちのコト、よろしくね♪」


芸能人顔負けのバッチリ決まったウインク付きで。



「………は?」