姫密桜

「マキ、もしかして
 この家が・・・」

玄関のドアが開き
帰って来たのは、櫂。

靴を脱ぐ、櫂にまで
聞こえる、母の微かな声。

悲しげな声で、母は問う。

「・・・嫌だから
 貴方は出て行くの?」

問いかけに答える槇の声
が聞こえる。

「違う、母さんそうじゃない
 俺はこの家が好きだよ」

「それなら何も、この家を
 出て行かなくても
 この家から通える職場を
 探せばいいじゃない?」

母が語った、その言葉は
槇を苦しめ、槇を縛る。

「チグサ、もういい・・・
 マキが決めたことだ」

「母さん、ごめん・・・」
 
「それにしても、マキ
 どうして、就職することを
 そんなにも急ぐ必要が
 あるんだ・・・
 何か、結婚したい相手
 でもいるのか?」