叫んだ正二は、その勢いでゲホンと咳をした。

一度の咳が呼び水となり、喉の奥がみるみる熱く腫れていく。

そんな正二の背中をさする、たおやかな手。


「ほら、大きな声を出すから。
正二さんは昔から貧じゃ……病弱なのに」

「ゴホッ……さく、らこ……さん」

涙目になる正二。

桜子はくすくすと笑う。


正二にとって桜子は一つ年上の幼馴染だ。

守られる側の弟だった正二は、いつしか桜子の背を追い越し、見た目はずいぶん大人になった。

持病が正二を本の虫にした結果、今や正二は町一番の秀才。

その才能を惜しむ声は、正二本人の耳にも届く程の噂になっていた。

「なのに……何故?」

桜子の独り言めいた呟きに、正二は姿勢を正した。