おさげ髪を弾ませて、泣きぼくろの小柄な少女……桜子が駆けてくる。

「お待たせしましたっ」

息を切らせ、着物の乱れを直す桜子。

丸刈り頭を横に振った正二は、緊張した面持ちで「これをあなたに」と一枚の紙を差し出した。

可憐な細い指が折畳まれたその紙を開く。


「まあ……」


艶やかな唇から感嘆の声が漏れた。


『願はくは 花の下にて春死なむ その如月の望月のころ』


長い睫毛を羽のようにパタパタと動かし、右上がりな筆文字を何度も目で追うと、桜子は囁いた。

「正二さん達筆ですねぇ。
書道家になられたら?」

「桜子さんっ!
見るところ違いますから!」