(玲視線)


「えっと、昔の‥?」

「そう、父親のことよ。」


瞬時に喉がカラリ、とした。

ダメ、なのだ。

何度、壱葉の過去を想像して慣れようにも、この前のように好奇心だけで突っ走っていない、冷静な俺には壱葉の過去は想像を絶するもので、本人ではないのに、堪えられなくなる。

喉が、張り付く。


「そ、れが、どうしたん、ですか?」

「貴方に、感謝してるのよ」

「‥っ、?」

「貴方に出会ってから、あの子笑うのよ。
女の顔で、幸せそうに。」



男である俺に、女が何をタイミングとして
「女」として幸せになるのかは分からなかった。ただ、俺が壱葉の笑顔を引き出せているのなら、それは俺の「幸せ」だ。





「ありがとう、玲くん。」




黙り込んで、ただぼーっと実感のない、空気のような幸せを考えていると、ポトリと言葉を落としていく様に婆さんは呟き、部屋から出て行った。












出会ってまだ間もない僕らは、
まだ互いを知らな過ぎる。

それでも愛を囁き合うのは、
「間もない」ことを感じたくないから。


君の幸せが僕の幸せになるなんて、
お伽話だけだと思ってたんだ。



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