そう言って、先生は着ている白衣のポケットから、手の平に何かを取り出した。

「これで冷やしなさい。せっかくのかわいい顔が台無しですよ」

「っ……!?」


 セリフもさることながら、突然視界を覆ったものに、息を飲んだ。


「ひゃっ…」

「ポケットサイズのアイスノンですよ」


 ―――え?


 手で確かめてからそれを浮かして、目でも確認する。

 手の熱を奪う“食べられません”と書いた保冷剤。

 驚いて、先生とそれを交互に見た。


「目、冷やして下さい」

 微笑みながら、先生は自分の目を指差した。


「……あ…」


 あたしの為…?


 先生の笑顔と行為が、胸にくすぐったい。


「どうも…」


 妙に照れ臭くて、隠すようにアイスノンで目を覆った。


 冷たいはずなのに。

 さっきとは違う熱を持った涙が目頭に込み上げる。

 零れ落ちた一筋を掬う、男の人にしてはやけに艶やかな指先の感触。


「貴女は笑顔の方が似合いますよ?」