「さて」

 ドラゴンが消え去ると、サレンスは凍青の瞳をレジィに向ける。

「何をどうして、お前はここにいる? 第一それは一体どうしたんだ?」

 レジィが手に持つ錫杖のことである。

「えっ? えへへ……」
「笑ってごまかすな」

 蒼い双眸を細めるサレンスに、レジィは恐る恐るといった様子で応じる。

「サレンス様、怒ってます?」
「怒らないとでも思ったのか。お前は王都に残るように言ったはずだ」
「だって……」

 困ったようなレジィに助け舟が出される

「まあまあ、そう怒るんやないよ」
「そうですよ。レジィちゃんだって心配だったんでしょうから」

 クラウンとサハナの女性陣二人の言葉にサレンスはため息をもらす。

「しかたないな。だが、後できっちりと説明してもらうからな」
「はい、サレンス様」

 首を小さくすくめて言うレジィを横目で睨みながらサレンスは、その場にすわりこんだ。

「さすがに少し疲れたな」
「サ、サレンス様」

 あわててレジィがサレンスの側により、顔を覗き込もうとしたとたん抱き込まれた。

「うわっ! 痛いですっ!」

 こめかみをぐりぐりとされて少年が悲鳴を上げる。

「言うことを聞かなかった罰だ」
「ごめんなさーい、許して」
「ちょっ、サレンスさん」
 
 見かねてサハナが止めようと声を掛けるが、アウルに制される。

「ほっとけよ。あれは遊んでるだけだろ」
「えっ、そうなの?」
「アウルはんのいう通りや。あんたらのケンカと変わらへんな」

 クラウンの言葉に森の民二人は顔を見合わせる。

「わたしたちのケンカって?」
「俺たちのケンカ?」

 重なる声にクラウンは吹きだした。