ぶたさん2

　突然、ねこさんが先程上げたのとは別の、悲鳴のような金切り声を上げながら、車の方に駆け寄っていきました。　タイヤに絡み付いているぶたさんだったものを、必死に取り外そうとしています。

　うさぎさんはフラフラしながらも立ち上がり、路上に散らばったぶたさんだったものを拾い集め出しました。　どろどろでぬるぬるなので、お互い作業は難航しましたが、何度も何度も必死で手にすくい、元々のぶたさんを再現しようと必死でした。

　回収中、体液ではない何らかの液体がぶたさんだったものに付着していることに、うさぎさんは気付きました。　その液体はどこからか、どんどんと流れてきます。

　流れ出る元が事故車で、その液体がガソリンだと認識したのは、大きな爆発音が鳴り響いたのとほぼ同時でした。　衝撃は炎をまとい、辺り一面を一瞬で火の海に変えました。　ぶたさんの目の前にいたねこさんは一瞬で炎に包まれ、声も上げられないままねこさんとしての機能を失ってしまいました。

　少し離れた場所にいたうさぎさんは、事態を把握できずにしばらくボンヤリとその様子を眺めていました。　しかし、自分の内側からも炎が上がっていることに気づくと、その引火元――あんなに大事に抱えていたぶたさんの破片――を放り投げて、熱い、死にたくない、熱い、死にたくない、とうめきながら、転がるようにどこかへ逃げて行きました。

　ぶたさんのラードを味方につけた炎は、それから何度か、更なる爆発を起こしました。　ぶたさんだったものも、ねこさんだったものも、何もかもを焼き尽くして行きます。　次第に人が集まってきましたが、その時、うさぎさんと白いエプロンの男は、既にどこかへ消えた後でした。