家に帰ると、ねこさんがドアの前で待っていました。 真っ赤な顔をしてつりあがった目の下に、深いクマが見えます。 連絡もせずに、数ヶ月留守にしてしまったのです。 ねこさんの心配と怒りは当たり前でした。 質問ぜめの後、ののしられ、なぐられ、携帯をおられ、そしてねこさんは泣きながら走り去ってしまいました。

 ぶたさんにとって、その状況はかなしさやこうかいよりも、不思議さがまさっていました。 お友達だろうと恋人だろうと、他人はどこまでいっても他人だと思っていたからです。

 じっさい、お金を失った時、今まで近くにいたお友達はみんないなくなっていったし、そんなものだとも思っていました。 結局、人と人とのつながりなんて、りがい関係しだい。 だから、金もナニもないこんな自分に、誰かが本気でぶつかってくるなんて、夢にも思っていなかったのです。 またぶたさんの中に、新しい感情がともります。



 毎日ねこさんの家に通ってあやまっていたぶたさんは、ある日ねこさんのお友達のうさぎさんと出会いました。 事情を話すとうさぎさんはとても協力的で、あやまるためのプレゼントや、さまざまな事をアドバイスしてくれました。

 その際、何度かおさけをのみにいったりして、たくさんのお金を使ってしまいましたが、うさぎさんともお友達になりました。 友情というものを体験するのも、これがはじめての事でした。



 なんやかんやでぶたさんはねこさんと仲直りをはたしました。 ですが、それまでの流れでまたお金をなくしてしまったぶたさんは、今度はちゃんとねこさんと相談し、お金の事を話し合いました。 ねこさんは知り合いの運送会社を紹介してくれました。

 なれない力仕事にぶたさんは苦労の連続でしたが、こころよい仕事なかまや、ねこさんの支えもあり、なんとか日々を過ごしていく事が出来ました。 いつかのぜいにくはすっかり落とされ、黒光りする体と汗は、まわりのぶたさんの中でもとびっきりで、「黒豚」と呼ばれて親しまれるほどになっていました。

 今まではお金をチラつかせないと集まらなかった人たちが、仕事の後にムショウで大騒ぎにつきあってくれる。 ぶたさんは次々とあたらしい経験に出会います。 りがいなんてなくても、人のつながりはうまれる。 ぶたさんの目から、スッと涙がこぼれおちました。