合縁奇縁~女は欲張りな生き物なのです

そこに立っていたのは、またもや、白石卓だった。

「柏木さんって、オフは別人ですね。なんか得した気分です」

しらっと笑って、白石が馬鹿げた台詞を投げてよこす。

「えっ、仕事じゃないの? えっ、もしかしてデートの約束とか?」

樹が柄にもなく驚いて、あたしと白石の顔を交互に見比べる。

「んなわけないでしょ……」

「帰れ、白石。あたしはこれから出かけるの!」

「そんな連れないこと言わないでくださいよ。下の車で森山も待ってんですから」

「お前ら、何考えてんの?」

「柏木さんを、ランチにでも誘おうっかなって思って」

あたしはこの時、去年、白石に引越しを手伝わせたことを呪った。

こいつの車がバンだと聞いて、つい軽い気持ちで引越しを手伝わせた。

大きな家具は引越し屋にたのんだものの、前日まで使っていた仕事の資料や、服、化粧品など、細々としたものが残ってしまったから。

まぁ、正直助かったけど。あたしの新居を知られることに、その時は何の抵抗も無かったんだけど。

あたしが、渋い顔をしていると、樹がとりなすように口を挟んできた。

「俺たちもこれから、外に食事に行こうかって言ってたとこなんだ。だから、君たちも、それに便乗するってことでいいんじゃね?」