合縁奇縁~女は欲張りな生き物なのです

中途半端な時間のせいか、途中どの階にも停止せず、エレベータは最上階までノンストップ。

ほっとした。

だって、なんか気恥ずかしい。

いきなり子連れでご出勤なんてね。

『チン』と軽い音がして、扉が開いた。

「やっぱり、裕子さん! お待ちしてましたよぉ~」

と扉の前で待ち構えてたのは、山口さん。

その後ろには、白石と森山の顔が頭一つで覗いている。

「山口さんはともかく、あんた達は就業時間内でしょ。サボってんじゃないわよ!」

思わず二人に、きつい言葉を浴びせてしまった。

ほんとは、とっても嬉しかったんだけど。

「僕達営業っすから、時間の遣り繰りは個人に任されてるんっす。いやぁ~裕子さん、すっかり母ですねぇ」

と森山がニヤケタ顔で近づいて来た。

「ほい、荷物と裕樹ちゃん、預かりますよ」

スリングの下からスルッと手を入れた森山は、手馴れた手つきで裕樹を抱き上げた。

「荷物はあたしが」

と、山口さんがあたしの手から荷物を受け取った。

「森山は姉貴の子の子守りで慣れてますから、安心して任せて大丈夫ですよ、裕子さん」

呆気にとられて二人を見送るあたしの肩を、白石がポンと叩いた。

「さ、保育室の中、見て下さい。今日が事実上、開店オープンなんですから」