少し駆け足で階段を降り、靴を履いてドアノブに手をかけた時。
「未央」
名前を呼ばれ振り返ると、そこにはお兄ちゃんがいた。
「あの…さ……」
頭をかきながらそうぼそっと呟いたかと思うと、そのまま黙り込んでしまった。
「…何?」
先輩を待たせていることに焦り、少しせかすように尋ねる。
「あ…その……もしアイツに泣かされたりしたら、すぐ兄ちゃんに言うんだぞ」
「え?」
「あと、少しでもアイツを嫌いだと思ったらすぐ別れろ。アイツにも失礼だからな、うん」
1人で納得するお兄ちゃんに、小さなため息をつきながら肩を落とすと、ハッとしたように口を開いた。
「あ、いや……まあ、でも……できるだけ、仲良く…しな、さい……」
恥ずかしそうな悔しそうな、なんともいえない表情を浮かべる。
少し笑いながらも「はい」と言って「それじゃあ…」と言いながら今度こそ扉を開けようとすると、
「あ、それと…」
と、また止められてしまった。
「いや、それとじゃないな。そんなついでみたいな言い方…」
少しブツブツと呟くと、コホンッと咳をしてあたしを見つめたお兄ちゃん。
そして、優しく笑った。
「…生まれてきてくれて、ありがとう」
満足そうにするお兄ちゃんに一瞬目を見開いたけど、すぐに笑顔を浮かべ、
「うん…」
そう返事をした。



