君に染まる(後編)






誰もいない建物は静まり返り、外から聞こえる部活動を行う生徒の声は遥か遠くに感じる。

2階の廊下に座り込み、壁にもたれて建物の入り口の扉をぼーっと眺める俺はさっきの優とのやり取りをぼんやり思い出していた。



優に話したことで少しだけ心が軽くなった気はする。

けど、問題が解決したわけでも、俺の恐怖心が消えたわけでもない。


やっぱり、どうにもならないことなのか…。







「…つか、遅ぇなあいつ」


約束の時間を30分もすぎてるというのに一向に開く気配のない扉をキッと睨む。


昨日、先日電話をかけてきたことと同様に珍しく未央から会いたいと言われた。

と言っても「14日の放課後ってVIPルームにいますか?いるなら少しだけ時間いただけますか?」とまるで取引先にアポイントメントをとるような、そして不自然な敬語だったわけで。


そこでどうして「会いたい」「一緒にいたい」という言葉が出ないのかと少し頭にきた。





別に、四六時中ところかまわず好きだの愛してるだのと言って欲しいなんて思ってない。

キスをねだり、甘え、誘って欲しいなんて思ってない。



ただ、もう少し、今よりほんの少しぐらい言葉にしてくれたっていいんじゃないか。





今でも十分俺のことを想ってくれていると感じてはいるし、側にいてくれるならそれでいいと思っているのも事実だ。


けど、たまに見せるどっちつかずな態度は俺を不快にさせる。



それゆえ、側にいてくれるだけでと思いながらも「もっと、もっと」とねだってしまう。

未央への苛立ちが全て欲求に変わってしまうんだ。