帰り道、未央は一言も口をきかなかった。
話題がない、というよりは俺の存在を完全に忘れているという感じで何か考え込んでいた。
時間があるからと手を繋いで歩いて帰ったというのに、あの様子じゃチラチラと見ていた俺の視線にすら気付いていたかも怪しい。
「…悩みごと、か?」
吐息混じりにもらした言葉が浴室に響く。
浴槽にもたれかかり天井を見上げ、未央のことを考えてはため息をつくの繰り返し。
思えば、未央と出会ったあの日から俺の頭の中は未央のことでいっぱいだ。
オンとオフはきっちり区別する性格なのでさすがに仕事をしている時はそうはいかないが、少しでも気が緩めばまず間違いなく考えてしまう。
何をしているのか。
何を食べたのか。
またアニキと喧嘩でもしているのか。
一緒にいなくても、俺のことを考えてくれているのか。
「…それはねぇか」
どうせ、未央の頭の中はピアノ一色だ。
なんのきっかけもなく俺のことを考えるなんてかなりの奇跡だろう。
「…ハッ…だいぶまいってんな、俺」
自分の卑屈さを鼻で笑う。



