「悪い、驚かせたな…で?スランプかなんかか?」
「あ………い、いえ…ちょっと考え事を、してて…」
「…考え事?」
妙に歯切れの悪い未央を不審に思う。
何も言わず見つめる俺に耐えられなくなったのか、未央は慌てて楽譜をファイルへしまった。
「あの、私もう帰りますね…」
カバンのチャックを閉め素早く帰り支度を整えた未央は、俺が寄りかかっているドアへ足を向けようとした瞬間。
何をそんなに急いでいたのかは知らないが、ピアノの椅子に足を引っ掛けた。
「あ…」
「っ…!」
バランスを崩し倒れかかる未央を慌てて支える。
「っと……大丈夫か?」
「わ…は、はい…!ごめんなさい!」
バッと顔をあげ勢いよく謝ってきた未央は、目が合った瞬間「あ…」と小さな声を漏らし頬を染め視線をそらした。
…んだ、それ。
別にマニアックなことをしたわけではないが、一応することはした仲だ。
キスは言わずもがな、それ以上だって両手じゃ足りないぐらいにはしている。
それなのに、未だに未央はこうして触れるだけで顔を赤らめる。
可愛い………と、思ってしまったが最後。
一瞬にしてその場の雰囲気は変わり、次に何が起こるかはきっと未央にも想像はつくだろう。
腰に手を回し、少し逃げ腰になっていた未央を抱き寄せた。
その反動でそらしていた視線を再び俺に向けたので、そのまま唇を重ねる。
「っ…!」
反射的に体を押してくる未央の手。
しかし、その手はすぐに力を弱めた。
少し震えているように感じた未央の手は、数秒どこかをさまよった後、俺のシャツをきゅっと掴んだ。



