君に染まる(後編)



元々今日はレッスンの日じゃなかった。

普段から未央のレッスンスケジュールは把握し、自分の都合と合う休みの日に誘うようにしている。

今日は俺も予定がなかったから久々に会えると思い誘ったのに、急にレッスンが入ったからと断られてしまった。

それなのに、なぜ未央はレッスンがなくなったことを連絡せずこんなところでピアノを弾いているのか。



俺が2階にいることは安易に想像できるはずなのに、会おうという気にはならなかったか。





暇さえあればいつでも会いたいと思う俺の気持ちと、未央の気持ち。

未だに噛み合わない2人の想いに苛立ちを感じる。




『そんなこと気にしたってしょうがない』
『側にいてくれるだけで十分だ』


これまである程度の理性を保ってこれたのはこんな想いがあったからだ。

けど…どこでタガが外れるか分かったもんじゃない。







もし外れてしまえば、俺は…。







「……っ」


ハッとして軽く頭を振る。


想像しただけで気持ちが悪い。

そんな情けない姿を見せるくらいなら圧倒的な数の矢印を俺から向けるだけの日々で構わない。



たとえ、未央からの矢印がたった1つだろうと…。


その矢印が他の男へ向かなければそれでいい。