「なんか前は時々暗い顔してたけど、最近そういう表情せえへんやん」





小塚はあたしの顔をのぞきこんで



そう言う。





「よくわかんない」



あたしはそれだけ言って



スカートの裾を軽く



ぽんぽんとはたいてから



立ち上がった。








まぶしい日差しに目を細め



手のひらを目の上にかざして



太陽の光をさえぎりながら



ゆっくりと屋上を横切るように歩いて



端っこの手すりにもたれかかり



遠くに見える山々を眺めた。










あの合宿の最後の夜から



あたしの心の中で



少しだけ何かが変った。









この世界には確かなものや



本当にあたしのことを考えてくれる人なんて



いるわけないとずっと思ってたけど。






そうやって誰にも何にも頼らずに



一人で生きていくつもりだったけど。





もしかしたら



あたしのそんな想いは間違っていたのかも。






そう考えるようになっていた。










暑さで歪む景色を眺めながら



ぼんやりとそんなことを考えるあたしを



小塚は遠くからずっと見つめている。








キンコーンカーンコーン








短い昼休みの終わりを告げるベルが鳴る。





あたしと小塚は無言のまま



校舎の中へ吸い込まれていった。