続けざまに言うイサの言葉は、幾らか柔らかな響きを持って、誘うように紡ぎ出される。


瞬間、師匠は嫌そうな顔をした。


多分、私の口元が緩んでいたことに気がついたからだろう。


だって……

あの、あの、ラグス国に行けるんだよ!?


いつだって憧れていた都会。


この機を逃さない手はない!!!


「師匠!行きましょう!!!」

「いや、行かないよ」

「いや、行きます!」

「行かない」

「師匠は行きたい筈です!」

「……一体何の洗脳術なの…」

深い溜め息にめげずに掴んだローブを、むしり取るように取り返され、行き場のなくなった手で師匠の腕を掴むと、腕を捻られ逃げられる。

イサは、冷めた表情でこちらのやり取りをじっと見ていた。

特に止めるつもりはないらしい。

加勢もしてくれないの!?

連れていきたいならこっちに加勢してくれたらいい話なのに……。

すがるようにイサへ視線を走らせると、察したのか視線をそらされる。

えぇええ!?

「……イサさんも師匠に何とか言って下さいよ!」

「いや、無理に連れてきても、エオルは仕事しないだろう」

そんなのいらない。

吐き捨てるように言ったイサは、一際大きな溜め息を吐いて、髪をかき上げた。

「エオル、少し考えるといい。お前は来ると信じている」

立ち去る前、イサは師匠に短く耳打ちをすると、優雅な笑みを浮かべて教会を後にした。

「…師匠…?」

立ち尽くす師匠は、どこか魂が抜けたように見えて、少し不安になる。

かけた声に引き戻されるように弾かれてこちらを向くと、師匠はいつもの柔らかな笑みで、帰ろう、と言った。


師匠……何を言われたの?


私には全く想像がつかなくて。

師匠が揺らぐところなんて、見たことがなかった。


ラグス国のことも、この時ばかりは一瞬頭から抜けていたんだ。