中に入って文句の一つでも言ってやりたかった。





でも、私の行動が社内に噂として広がり父に迷惑かけるほうが嫌だった。





確かに何不自由なく暮らしてきた。





社会に出て働くという事がどんなものかも知らないけど、大変だという事はわかってる。





休日返上で仕事に向かい、出張で何日も家を空け、電話が鳴れば朝早かろうが深夜だろうが仕事に向かう父を見てきた。





「お母さん、お父さん仕事ばかりだね。」





小学生の時に、一度母に聞いた事がある。





「お仕事してるパパはカッコいいのよ。パパが一生懸命お仕事して会社のみんなを守るのよ。」





父が仕事ばかりでも、寂しそうな顔を見せず、寧ろ幸せそうな表情を浮かべる母の顔が印象に残っている。





今までは漠然としていたけど、トイレで社員の話を聞いてから考えが変わった。





いつまでもお嬢様なんかじゃいられない。





お嬢様でも働ける。





少しでも父の手助けができればいい。





そう思い、高校に入学してから夏休みや長い休みは父に頼み込んで社会勉強をする事にした。