満月

その日は犯罪の発生率が他の日よりも格段に高いらしい。満月が影響しているのか、それともそれ以外の何かなのかもしれない。しかし犯罪の発生率が高いのは確かである。

一人の女性が夜道を歩いていた、幸い街灯もあって明るい、それに女性は空手の段位を持っているため、そんじょそこらの暴漢が襲って来ても平気だと思っていた。
事実、過去に暴漢二人を取り押さえていたことはあったため、その自信はかなりのものだった。

女性はそれを見付けた、満月の明かりの下に、それはいた。黒い、大きな帽子を被り、黒い前の開けたコートを羽織り、下は黒いワイシャツの前を開けさせ、黒のパンツの全身黒づくめ。黒い髪はただ伸ばしただけのボサボサ、目元は帽子の鍔で見えないが、口元はよく見える。その口はこう動いた

―みぃつけた―

女性は直感的に、いや、状況的にそれが殺人鬼だと悟った。何故ならそれの右手には真っ赤に血塗られた、長さ2メートル程の長刀が握られており。その足元にはついさっき切り裂かれたであろう男性が、赤い血を噴き出す噴水と成っていたからだ。