ダルそうに間延びした声。下の名を呼び捨てで呼ぶのは両親と蒼衣だけだ。声の時点でわかってはいたがまだ頭の中は混乱してるみたいだ。助けを乞うような目をしていたのかズカズカと教室に入り込んだ蒼衣は笑顔で武瑠に挨拶をした。


「千明の幼なじみの蒼衣ってんだ。あんたは?」


どこかきな臭い笑みを浮かべた蒼衣は握手を求め、それに応えた武瑠は手を差し出す。一瞬目を見開いたが瞬時に笑顔に切り替え武瑠です、と返した。手には血管が浮かび上がっている。蒼衣の手にも。つまり今この手にはかなりの握力がかかっているということだろう。


「今日転校してきたばかりなんで千明に案内してもらおうとしてたんです」
「ちょっと、勝手に呼び捨てで呼ばないで」
「オレのことは武瑠でいいよ」


良くない。全く良くない。呼び捨てで呼ぶなといっているというのにこの人はわかっているのだろうか。


「ふられちゃったね、武瑠」
「やだなー、蒼衣さんには呼び捨てで呼んでなんて言ってないですよ」
「あはははは」