「すいませーん。
遅くなって…ハァ、ハァ」
『別に時間通りじゃん?
そんな走ってこなくても良かったのに…』
「だって…早坂さんが見えたから、遅刻したかと思って」
『ハハ、バーカ!
俺は5分前行動なんだよ』
一緒に電車に乗った。
緊張しすぎて、揺れて肩が触れ合うたびに大声をあげそうになった。
『ジョン・カールか……懐かしいな。
確かミキが熱狂的ファンだったな。
高校んとき、画集やら本やら無理やり貸されんの』
「わたしだって画集も本も全部もってます。
でも嬉しいな。
早坂さんがジョン・カールのこと知っててくれて」
『知ってるってほどのもんじゃねーぞ?
あっ、でもあの代表作は…』
緊張してる私なんてお見通しの早坂さん。
こんな何気ない会話のチョイスもさすがだ。
やっとたどり着いたビル。
ずっと来たかったジョン・カール展。
まさか大好きな人と一緒に来れるなんて、夢にもおもわなかったな。
オシャレな自動ドアをくぐると、キラキラした大好きなジョン・カールの世界が待っている。
そう思ってた……――。
だけど……
私にはずっと引っかかっていることがあった。
ミキさん(梶山先生)の話はでてくるのに、サキさんの話題はあきらかに避けている。
そりゃ元カノの話なんてしないのかもしれないけど、何故か引っかかる。
早坂さんはサキさんの何かを引きずっている。
そんな気がした。