「早坂さん…

大人ですね…わたしだったらきっと許せない…」








『大人じゃないよ…』






早坂さんはそう言って、しがみついている私の腕をするりと抜けると
椅子に座りなおした










机に肘をつきながら話を続ける……―








『そんな風に割り切れるほど俺だって器用じゃなかった。

一度あった事実を
なかったことにするなんて無理だったんだ…

それからの俺はただ意地になって付き合ってた。

マスターにも、何とも思ってないフリして…
許したフリして…』






「サキさんとは…?」









『サキとは…

医師試験やら研修で忙しいことを理由に、ほとんど会わなくなった。

というか、会いたくなかったんだ……―。

サキとマスターが関係をもった事実に向き合いたくなかったんだ…

逃げてたんだ…!』








「そんな…逃げちゃいたい気持ちをもつのは当たり前です!

付き合っていられただけ早坂さんはすごい!!」










『その、付き合っていたのがいけなかったんだ…

サキを余計に苦しめた!

デートもろくにしない、電話も出ない、会っても目も合わさない…

そんなの付き合ってるって言えるか?』









ブルンブルンと首を横にふる









『だろ?

事実に向き合いたくなくて
俺はひたすら逃げてたんだ。
その事で結局、2人とも傷つけちまった…』










…ピピピ…ピピピ…ピピピ…






暗い空気を裂くかのように
院外コールが鳴った