『今日さ…
マスターが救急で運ばれてきたんだ!』
「えっ……」
『俺…気付いてたのに…
マスターの様子がおかしいの…
サキのことあんな必死になって探してるなんて、おかしかったのに…』
そっか…。
だから今日は【piano】でご飯を食べなかったんだ…
「どうして…サキさん?」
『マスターと奥さんには子どもがいなかった。
正確には、奥さんの病気でできなかったんだ…
だからマスターも奥さんもサキの事を本当の子どものように可愛がってた。』
「サキさんは愛する奥さんの1番弟子だったから…
マスターも大切に思ってたんでしょうね…」
『あぁ。
俺とサキが付き合い出してからは、コジュウトみたいにうるさかったぞ?
うちの娘に手を出すな!とかって…』
「ハハ…。」
『でもな…
不幸なことにマスターにとって、サキは娘以上の存在になってしまったんだ!』
「どういう…事?」
『奥さんが海外遠征でだんだんと忙しくなってきて家を留守がちになってくると、
【piano】で奥さんそっくりの演奏するサキを…
愛する奥さんそっくりなサキ…
娘のようなサキ…
ふたつを混同してサキを見るようになったんだ…』
「“娘”と“愛する人”は違いますよね…?」
『うん。
離婚が決まって、いざ奥さんが目の前からいなくなると、
“愛する人”への欲求が高まって、サキを女として見るようになった…』

