スイッチ

古いアルバムと母が二十歳のお祝いに兄に内緒で送ってくれた現金1万円とセーターと手紙。『たまにはお洒落してください』
あの時はありがたいなんて思いもしなかった、エンジ色のセーター。
何度も編んで解き、形を変えて私のセーターとなって生まれ変わったセーターだった。
一度も袖を通す事もなく、まるめて紙袋に押し込んだままだった。
もう何十年も経っているのに、若かった頃の母の匂いがした。
悲しくなんかなかったのに、涙が止め処なくなく流れ出した。
『辛かったら、いつでも帰っておいで』その言葉を、何年も何十年も待っていただけなのかもしれない。