姫とあいつと婚約者

「ガキみたいな理由だけど、

父さんとの思いでも唯一この場所くらい。


元気が出るんだ。あの頃の父さんとの思い出を思い出すことができて。
それで、ここに来るたびに思うんだ。



父さんは、俺のこと嫌いなのかな──────ってさ




でもいいんだ。
きっと俺のことを大切にしてるって信じてるから。」


「フッ・・・フフ・・・」

「何、笑ってんだよ。」

思わず笑ってしまった私に照れくさそうに怒った。

「蒼、可愛い。でもきっとそうだよ。蒼のお父さんは蒼のこと、嫌いなんかじゃない。大切にしてくれていると思うよ。
・・・じゃあ今回の旅行も楽しみにしてたんだね。蒼は。ごめんね。私なんかと一緒にされちゃって・・・本当はお父さんといたかったはずなのに。

いっぱい話したいことだってあるでしょ?」

「ま、まあ・・・。」

私は蒼の頭を撫でた。

「私も元気出た・・・ありがとう!」

「・・・。」

蒼は無言のまま笑った。
そして

「じゃあ、部屋に戻るか。」

とだけ言って部屋に戻った。
この時見た月はとても澄んでいて綺麗に輝いていた。