「そーいえばさ、何でここが元気の出る場所なの?思い出とかあんの?」

あー・・・
と、呟いた蒼。

「俺ってさ、父さんと遊んだ思い出って、あんまりないんだ。」

・・・いつもはお父様って言うのに。
父さんって言った・・・

「大体仕事は海外だし。
だから日本よりも外国の滞在期間のほうが長いんだよ。

旅行するのもいつも母さんと。父さんと合流したってすぐに仕事に行くんだ。


・・・で唯一、家族で旅行した場所は、ここ、伊豆。だから嬉しかったんだ。
今回の旅行はさ。
それでこの砂浜でガキのころ、父さんと初めてのキャッチボールをしたんだ。
すっげー楽しかったのを覚えてる。

でも俺は下手くそでさ、父さんに笑われたんだ。それでも父さんは何回も俺にボールを投げてくれた。
そのおかげでどんどん上手くなっていって。

でも途中で父さん用事が出来て、どっか行った。

それから、父さんに上手くなったって言われたくて、褒められたくて、驚かせたくて・・・
たくさん練習をしたんだ。キャッチボールの。




でも、その日以来キャッチボールは父さんとしなくなった。
あれが最初で最後だったんだ。」



と悲しそうに、けれど笑うように言った。