「あ、そういえば健人にメールしなくちゃ。」

優美はハッとしたように、鞄から携帯を取り出してメールを打ち始めた。

それを見ながら、俺は何だか、ひどく釈然としない、もやがかかった気持ちを抱いていた。

・・健人って、誰だよ?


そういえば最初の電話を聞いてしまった時も、健人とか言っていた。さっきもだ。

優美を見る限り、だいぶ信頼しているような感じだし・・、相当親しいのは間違いない。


気が付いたらイライラしている自分に、ハッとした。


・・なんで俺、そんなこと気にしてんだ?


メールを打っている優美を横目に見た。

こいつは、ただのスタッフだ。秘密を知っちまったから、俺はこうしてるだけで・・。

そこに、特別な感情はないはず。


そう考えながらも、俺は無視できない自分の苛立ちの意味を、感じずにはいられなかった。


「よし、これで平気、と。」

優美は独り言のように呟いて、携帯を閉じた。

「学校まで、多分あと20分くらいだ。」

「うん、本当にありがとう。輝がいなかったらどうなってたか・・。」

優美の返事に、少しだけ心が浮き立つ。
そんな自分が、少し恥ずかしくなった。

「いや、いいけど。ただ、こっちの仕事に支障ないようにキッチリ片付けてこいよ。」

感情を押し込めようとしたら、少しだけ言い方がキツくなってしまった。

「うん、輝にわざわざ送ってもらった分、頑張るよ。」

優美はそんな俺の態度もあまり気にせず、そう言って笑った。

こいつの、こういうあっけらかんとしたトコがいいんだよな・・・。