隣で輝が、はぁとため息をついたのが聞こえた。き、気にしない。

「・・この業界は、流れが早い。」

「え?」

「いくら外で騒がれてたって、CDの売上枚数があがったって、そんなのは俺たちの本当の実力じゃない。俺たちを売り出そうと必死でやってきた、事務所の力だ。
テレビや媒体なんかで騒がれてるブームだの人気だのなんて言葉は、一番信用ならねえ。
そんなんで騒がれる必要もないくらい、確立した地位を築かなきゃなんねえ。
そのためには、今来る仕事を全部やる。どんどんもらって、どんどんこなす。数打ちゃ、いいってもんじゃねえ。でも本気で数打てば、当たるかもしんねえだろ。」

・・何も、言えなかった。

その覚悟が、輝の中の闘志が、あまりにもあたしが考えているレベルとは、掛け離れている気がして。

ただわかったことは。

この人は、すごい。

それだけだった。


「だから今は、休みなんていらねえんだ。」

輝は最後に、きっぱりとそう言い放った。その横顔は、やっぱり惚れ惚れするくらいかっこいい。

あたしは途端に、自分が情けなくなった。

輝はこんなに頑張っているのに、それにどんなに頑張ってもついていけない自分が、悲しくなった。

こんな自分を相手にさせていることが、ひどく申し訳なかった。

「・・ごめんね、輝。」

「・・あ?なにが。」

いきなり謝ったあたしに、輝は怪訝な表情(かお)を向けた。

「あたし、輝の役に全然立ててなくて。のろいし、とろいし、むしろ迷惑かけてるし・・。
休みなくて疲れてるはずなのに、こんなん相手にさせて・・。ごめん。」