「・・そか。」

ユキは、2年前のある一件で身を引いて以来、第一線には出れなくなった。
細々と活動を続けてはいるが、日の目を浴びる作品にはなかなか出れないでいる。

南は、ユキの事務所の後輩で、ユキの妹分みたいにして育ってきた。
ユキの演技がすきで、ユキみたいになりたくて、頑張ってきたんだと、前にそう言っていた。

「ユキ先輩、最初はあたしのこと嫌ってたぽかったんですけど、最近は結構話してくれたり。相談とかも乗ってくれてて。」

「うん。」

「ユキ先輩、多分今回のやつ行きたがってたんで。まああたしも行きたいし、ユキ先輩のはついでですけどね!」

南はそういって笑った。

南は、ユキの事務所の人間だ。なぜユキが今、第一線から引いているのか、知らないはずはないだろうに。

「お前さあ・・、いいやつだな。」

「へ!?」

「俺、この業界で南みたいなやつ初めてだわ。本当、お前に救われるやつ、いっぱいいると思う。・・・ユキ、連れてきてやってくれな。」

「・・はいっ!あ、じゃあもう行きますねっ。チケット、本当にありがとうございましたっ!」

「ああ。」

走ってスタジオに戻る南の背中を見届けた。

ユキの名前を聞いても、もうあの頃のように、憎しみや哀しみが募るような気持ちにはならない。
あんなにもユキを恨んだけれど、今となってはそれも消えた。
今は、やるせないような、チクリと少しだけ胸の痛むような、そんな気持ちだけが残る。


でも、ユキを許せたのはきっと・・。



『・・輝、ユキさんを、憎まないであげて。』



・・・優美。

あのときお前は、どんな想いであれを言ったんだよ。

教えてくれ、聞かせてくれよ。

今もまだ、胸が苦しい。
愛おしくて、触れられないことが苦しくて、過去を思い出せば哀しくて、でも温かくて。