輝が走っていく姿を、廊下の隅から見届けて、楽屋へ戻った。

鏡台に映った、自分の姿。

髪が少し乱れて、涙目で・・・。

自分で言うのもなんだけど、どこから見ても、一途なかわいい女、に見えた。


でも自分にはわかってる。
こんな姿、輝にはなんの効果もないことくらい。

まあ、少しは動揺してくれてたみたいだから、あんな演技も、ちょっとは役立ったのかもしれない。


だけど・・・。


『だから優美とはなんでもねえって!』


まさか、自分の目の前であんなふうに名前を呼ぶなんて・・・。

思わず、楽屋の鏡台に拳をたたき付けた。


「あんな子の・・どこがいいっていうのよ・・・!」

悔しい。悔しい。悔しい。

輝は最後まで、ボロはださなかった。あの子を守るために。
それに・・・、あんなに本気で怒る輝を、初めて見た。


もう、口も聞いてもらえないのかもしれない。


そう思うと、途端に青ざめた。

「どうしよ・・。」

やっぱり、やりすぎたの?


すると、鏡台の上に置いていたストラップが、ブーッブーッと、バイブ音を鳴らし始めた。
なぜかひどくイライラした。

こんな時に誰よ??

乱暴に携帯を手に取る。ディスプレイを見ると、ケイだった。

「・・・・ちっ。」

一旦舌打ちをしてから、

「何の用?」

と電話に出た。

『わー・・、今日はこれまた、最高に不機嫌ですねえ。』

ケイのふざけた声が耳に届く。それにさえイライラする。

「用がないなら切るから。」

『ちょちょちょ!ちょっと待て!!あるよ、あるから用!』

「・・はあ、たく、何よ?あたし今、最高に気分悪いから、ふざけた用ならぶん殴るわよ。」

『・・好感度第一位の女優の本性、ファンが見たら卒倒だな。』

「うるさい。」