「やめろよ、俺はお前には」

「応えられないって言うんでしょ?どうして?じゃあなんで告白だけでもさせてくれないの?なんであたしはダメで、優美ちゃんならいいのよ?」

ユキの本格的な涙声に、俺は頭が痛くなった。
こんな姿を、初めて見た。
できれば見たくなかった。

同じ俳優として、尊敬しあえる仲間だったのに・・・。

やっぱり、こいつも、ただの「女」だ。弱い、弱い、「女」だ。

「だから優美とはなんでもねえって!」

「・・じゃあなんで、名前で呼ぶのよ?」

「・・俺とあいつは、今や仕事仲間だ。あいつは、俺の専属の通しスタッフだ。名前で呼ぶのは、俺から提案した。それ以上はない。」

やむを得ず、そう話した。

「この間の電話も、確かに優美だった。・・でも、仕事上のもんだ。」

「番号を教えるの?そんなの、必要ないじゃない!」

「そんなことお前に言われる筋合いはねえ!」

声を荒げたユキに、とうとうイライラが頂点に達した。

「・・お前、勘違いすんな。俺は、お前に応えるつもりはさらさらない。女になんか興味ねえんだよ。なんであたしがダメって?そんなん全部に決まってんだろ。彼女でもねえ、好きでもねえ女に、ここまで束縛されなきゃなんねえのか。笑わせんな。」

久しぶりに、こんなにキレた。頭が沸騰しているみたいだった。
ユキもそんな俺を見て、さすがにまずいと思ったのか、涙目が引いた。

「・・お前を、女優としては尊敬してる。でも、気持ちに応えるつもりは一生ねえよ。わかったら帰れ。」

そう言い切って、俺は背中を向けた。

・・これで、どうにかわかってくれる。

そう思った。でも、甘かった。


次の瞬間、背中に、ドンと鈍い衝撃が走った。