「輝・・、お疲れ様。」

「まだいたのかよ。俺、忙しいんだけど。」

力なく微笑んだユキに、俺はそっけなく答えた。

「話が、あるの。」

俺は畳の上へ上がり、クローゼットから私服を取り出すと、背後から決意の固い声がした。

嫌な、予感がした。

「・・たくなんだよ、あるなら手短にな。」

俺は平静を装って、ユキの方へ向き直った。
今聞かなければならない気がした。

ユキは惑うように視線をさ迷わせてから、こっちを見た。これさえ演技だとしたら、やっぱりこいつは本物の女優だ、と場違いに思った。

「輝・・、実はあたし、この間聞いてたの。」

「・・何を。」

「・・優美ちゃんと、電話してたでしょ。付き合ってるのね?」

「またその話かよ、それなら悠だっつったろ。」

俺はうんざりした表情を作りながら、気が気じゃなかった。

「嘘、ごまかさないで。ちゃんと聞いたんだから。・・輝が、「ゆみ」って何度も言うの。」

すると間髪入れずに、ユキが否定してきた。その声は、震えて、今にも泣き出しそうだ。ユキのそんな声を、俺は初めて聞いた。

「・・輝、あんたは、優しくないわ。」

「・・は?」

いきなり、なんの話だよ。

「あたしにだって、ケイにだって、悠たちにだって。・・・なのに、違う。優美ちゃんには、違うのよ。」

・・優美には、違う?

俺には、わからない。ユキが何を言っているのか。

言い返せばいい。違うと。

でも、ユキの真剣すぎる瞳が、その言葉を押し止めた。

「あたしには、わかるの。だってあたしは・・輝が」

「やめろ。」

かろうじて、それだけが言えた。
ユキのただならぬ雰囲気にのまれそうになる中で、その決定的な言葉は、聞きたくなかった。