恋人はトップアイドル

「怒ってねえよ。」

ユキの本性を、初めて垣間見た気がした。そしてわかった。

なぜ俺が、この女を嫌うのか。

「そ?あ、そのコーヒー本当美味しいから。味わって飲んでね~。」

ユキはあっけらかんとした表情を俺に見せて、優雅に立ち上がった。

「また明日ね、輝。」

そして誰もが美しいと思うであろう笑顔を見せて、楽屋から出て行った。


・・してやられた!

俺はその瞬間、自分を殴りたい衝動にかられた。

気を抜いてた。完全に。
優美からの電話で、舞い上がってたんだ、きっと。


あいつはきっと聞いてたはずだ。優美との会話を全部。


だからいきなり、あんなふうに本性を見せてきた。

・・でも優美には、何もできねえはずだ。
あいつと優美に、直接的な接点はない。


問題は、あいつが言い触らさないか。それだけだ。
あいつの影響力はでかい。

どこかでポロッと言われたら、それだけでも大騒ぎだ。


「くそ・・!」


これじゃ弱みを握られたのと同じこと。
ユキがこれからどう仕掛けてくるのか、わからない。


・・けど。
なにがあっても。


あいつを守る。


俺が考えるべきなのは、優美のことだ。優美を守ることは、俺を守ることにも繋がる。

ユキが例え、どんなふうに俺に迫っても、俺は絶対屈しない。

そう、考えていればいいんだ。


俺は立て直して、ようやく私服へ着替えた。スケジュールの手帳を見て、Rのレギュラー番組の収録日を確認する。まだ2週間も先だ。

でも、策は早い方がいい。


俺はカバンから携帯を取り出した。
まずは、こいつに相談しなければ。

発信ボタンを押した。5コールが鳴って、相手が出る。

「堂本か?」

俺は、そう相手に問い掛けた。