恋人はトップアイドル

「あーきらっ。」

するとそこにいきなりユキが飛び込んできた。俺は反射的に立ち上がる。

「お疲れ様。ね、これ、差し入れ。」

ユキはにこやかに笑って、俺に有名店のコーヒー豆を差し出した。
俺が甘いものを好きではない、と知ってか、ユキがコーヒー好きだからか、定期的にユキはこれを差し入れてくれる。

「あ、ああ・・、さんきゅ。」

珍しく、動揺が声に出た。携帯を持ってないほうの手で、それを受け取る。

こいつ・・今来たのか・・・?

そんな疑問が、胸を嫌にもやもやさせる。

「ね、今電話してたの誰?」

すると、ユキは楽屋の鏡台の前の椅子に腰掛けて、突然そんなことを聞いてきた。


こいつやっぱり・・!

「あ?あーと、悠だよ、悠。仕事の、ことで少しな。」

俺は動揺のせいか、とっさに嘘をついた。

「へ?悠?・・でも、ユミ、とか言ってなかった?」

「は?言ってねーだろ、聞き間違いしてんじゃねーよ。」

「ふーん。」

なんとかバクバクと鳴る心臓を落ち着かせる。カバンを手にとって、その中にコーヒー豆と携帯をほうり込む。

頭の中に、何日か前の、ケイの警告が響いた。

『ユキには気をつけろよ。』

「そっかあ。聞き間違いかあ。スキャンダルかと思ってドキドキしちゃったのにな。」

「あのなあ。つか大体盗み聞きとかすんなよな。」

「だって電話中に入ってったらまずいでしょ?」

「それだったら後にしろよ。」

俺は無性にいらついて、声を少し荒立てた。

「・・そんな怒らないでよ。」

しかしその返事に、俺は寒気がした。

今まで聞いたこともないような、ユキの静かな声。だけどどこか、決意を感じさせる、暗い声。

それは俺に、何か挑戦を挑んでいるようでもあった。