マネージャーと一緒に楽屋へと戻る。役のため束ねられた髪をいったんほどいて、手で解しながら楽屋のドアを押した。

「よー。」

すると。

そこにはいるはずのない男が、楽屋の鏡台に腰掛けて私に向かって手をあげた。

「・・・なにやってんの。」

「あれ?ケイ、あんた今日撮影じゃなかった?」

私が呆れた声を上げた側で、マネージャーがケイに声をかけた。

私の今のマネージャーは、ケイの元マネージャーだ。だから私も、マネージャーのことは、彼女がケイについていたころから知っていた。同じ事務所にいれば、こういうことはザラにある。

「よっ、植田さん!いやね、映画の撮影おしてるから、今待ち中なんだよね。」

私はケイに目もくれず、楽屋の畳の上に上がった。

「なに、同じスタジオなの?」

「ああ。」

「へー。最近ドラマばかりだから、映画の方どんくらい進んでんのかわからないんだけど。」

ケイが今同じスタジオで撮影している映画には、私もヒロイン役で出ている。そして主人公は輝だ。

輝が相手じゃなければ、ドラマ2本、CM5本を抱えているこの時期に、映画なんて引き受けなかった。

でも実際は、ドラマが大変すぎて、映画の撮影にはほぼ顔を出せていない。輝と一緒のシーンも、まだ3分の1撮り終えたくらいだ。

「とりあえずユキなしのシーンは結構進んでるぜ?俺はあと2日くらいで終わるんじゃねーかな。」

ケイは私が机に置いたドラマの台本をパラパラとめくりながら、そう答えた。

「・・今日は誰とのシーンなの?」

さりげなく、そんなことを聞いてみた。