「それでね、今までは何とか出張だけでやってきたんだけど・・・、そろそろ、どっちかに拠点を下ろさないかって話を受けたのよ。」

お母さんは、若干言いにくそうに、それを口にした。

「・・拠点?」

あたしの頭が、瞬時にその意味を理解する。

つまり、それは-------。

「本社に移るか、このまま支社に残るか、どっちにするかっていう話が出てるの。」

お母さんが、そう続けた。

でもそれは。

支社に残るということは、つまり、出世のチャンスを棒に振るということ。
本社には、誰もが行けるわけじゃない。

お母さんは年齢的に考えても、これがラストチャンス。


だけど------。


無意識に、手が震えた。


そうしたらあたしは。


あたしは、本当に一人ぼっちになってしまう。


ああ、だからか。
だからお母さんは、休みをとったんだ。
あたしと過ごすために。


きっともう、決めてしまっているんだ。


「・・優美が、行かないでって言うなら、私は行かないわ。日本に残ったら、多分今まで以上にゆっくりできるし、優美とのこういう時間も取れるしね。・・だから優美、自分の正直な気持ちを、私に伝えて。」


お母さんは、あたしに判断を委ねてる。あたしの選択を、聞き入れてくれる。


日本にいてほしい。
そうしたら、あたしはもう、一人ぼっちじゃない。


だけど・・・。


お母さんの今までの姿がフラッシュバックする。
それなりの熱意を持って、取り組み続けてきた姿が。


「お母さんは・・どうしたいの?」

あたしは、ギュッと手を握りしめて、お母さんを見据えた。