「そのあと、きっと仕事してたんだとおもう。小さかったから、あまり覚えてないけど。」

優美はそう言って、切なげに微笑んだ。

「あたしが、小学校に入って最初の夏に・・、お父さんが、アメリカに転勤になったの。お父さんの会社では、アメリカ転勤は夢のような話で、限られた人しか行けなかった。3年経ったら戻るって約束で、お父さんは転勤したの。

毎日電話があったし、あたしはそんなに寂しくなかった。でもお母さんは・・、どうだったかな。多分、寂しかったと思うんだ。

で・・、ある日、いつもみたいに電話がかかってきて・・」


そこで、優美の声が途切れた。俺は無言で、優美の手を握る。小さなその手は、少し震えていた。


「お母さんの様子が、いつもと違うなって。最初、そう思って。なんかあったのかなって、思ってたら・・、次の日の夜には、アメリカにいて・・、お父さんが眠ってる場所に、連れていかれた。

・・お母さん、泣いてた。ずっと。

過労死だったの。仕事が忙しくて、電話してる暇なんか、多分なかったんだとおもう。ロクに、食事も取れてなかったみたいで・・・。

お母さんが、何度も何度も、お父さんに、ごめんねごめんねって言ってて・・、でもその時あたしは・・、何が起こってるのか、あまりよく、わかんなくて。」


徐々に、優美の声が震え出す。目に涙が溜まっているのが、横からでもわかった。


「それからは・・あまりよく、覚えてないの。
ただ、家はもう・・暗くなって、お母さんは塞ぎこんで。それから暫くして、お母さんは、元いた会社で働き出したの。」