しかし。

「お父さんは、もういないの。」

優美は、何ら変わらない声で、しっかりとそう言った。


俺は、両親はいて当たり前だという価値観だった。だから、優美の返事に対して、一瞬その意味を理解しかねた。


「死んだの。あたしが、小学校3年生の時に。」


戸惑いが伝わったのか、優美はそう続けた。
でもその表情は、やっぱりいつもと変わりなくて・・、俺の方が何だか、胸が熱くなった。


「びっくりしたでしょ?・・でも大丈夫、気遣わないで。もう、整理はついてるの。」


なんて、強い女。


そう思った。

俺はなんて言ったらいいのか、どう反応すればいいのか、わからねえのに。


「・・・聞いても、いいか?」

「え?」

「お前の・・家の事。」


だからか。知りたくなった。
もっともっと、近づきたい。

どんなに辛い話にも、耳を傾けたい。
俺に、預けてほしい。


優美は一瞬躊躇うようにして、だけどそのあとふわっと微笑んだ。

それが肯定の意味だと、悟った。


「あたしのお父さんとお母さんは、大学時代からの付き合いで、二人ともすごく、頭がよかったの。卒業したあと、二人とも大企業に就職して、お母さんはキャリアウーマンになって、お父さんは社内で若手No.1の有望株って言われてたらしいよ。

就職して4年くらい経った時にお母さんが妊娠して、結婚して・・・。今の家を建てたの。お母さんは専業主婦になって、毎日幸せだったの覚えてる。

お父さんは、すごくお母さんの事大事にしてた。どんなに忙しくても必ず家でご飯を食べて、お母さんの話を聞いて、あたしとも遊んでくれた。」