「優美、お待たせ。」

輝の声に、顔を上げた。するとそこには、さっきまでの私服姿とも違う、部屋着姿の輝がいた。

グレーのスウェットを着て、マグカップを両手に持って、髪の毛も無造作に散らされている。

普段の輝って、こんな感じなんだ・・・。


それでもかっこよくて、あたしは胸のドキドキが収まらなかった。

「紅茶なんだけど、よかったか?」

「あ、うん、大丈夫。ありがとう。」

マグカップを受け取ると、輝はあたしの左横に腰をおろした。

いつもと違う場所だからなのか。いつもと違う輝だからなのか。あたしは妙に緊張して、とりあえず紅茶を一口飲んだ。


「・・悪かったな。こんな事になって。」

ふいに、輝が申し訳なさそうに声を出した。

「ううん、輝のせいじゃないから。」

あたしは即座にそう返す。

「・・でも、やっぱりあんなふうに張り付かれるもんなんだね。・・芸能人って大変だね。」

初めて知ったこの世界の裏側。何だか戸惑いがあるのは、本当だった。

「ああ・・。本当、参る。」

「・・・輝、大丈夫?」

輝のつらそうな声に、あたしは心配になる。

「ちゃんと、休めてるの?」

「そこらへんは大丈夫だから、気にすんな。」

「でも・・・。」

「外いる時は油断できねーけど、中にいれば大丈夫だから。」

輝の笑った顔に、あたしは違和感を覚える。

輝はきっと、あたしを安心させようとしてるんだ。だけど・・・。

「・・輝、らしくないよ。」

「・・・は?」

少し低めの声が、輝から返ってくる。